FlatfishGardenの泡 2nd

KOSHU178の日記

虚無僧尺八の世界 北陸の尺八 三谷

尺八奏者中村明一氏のコンサートに行ってきた。お茶の水カザルスホール。
中村明一HPは以下の場所
http://www.kokoo.com


中村氏はバークリー出身でジャズのアドリブもできる珍しい尺八奏者だが、同時に日本各地に伝承されている様々な尺八奏法や楽曲を研究し、それを発表する場もコンスタントに作っている。詳しくはご本人のHPにプロフィールがあるだろう。


私が彼のライブを見るのは今回で3度目。
最初は六本木ピットインでフュージョン系のユニット、2度目は箏2人と尺八でジミヘンやZep、キングクリムゾンなどの曲をやるユニット「Kokoo」、そして今回は、

「虚無僧尺八の世界-北陸の尺八三谷」

基本的に尺八のソロ。
曲により一尺八寸、二尺四寸、三尺一寸、一尺四寸、、、など様々な長さの尺八を使用する。門外漢の私にはそれぞれの曲のメロディーの違いを把握するのは無理であったが、音色の違いだけはよく解った。それぞれ味があって非常に美しい。演奏も繊細なピアニシモのロングトーンからいきなり息の音が80%ミックスされたフォルテシモの「ぶひょひょぉ〜〜〜ぉんぉんぉん(首を振っている)」に移行するまで、全ての1音1音が完璧にコントロールされており、長年の「修行」のみが達し得る領域だということも心底納得してしまう。国や楽器を問わない「伝統芸能」の奥深さを感じるとともに、ジャズの何人かの管楽器プレーヤーがやっている「循環呼吸によるノンブレス演奏」なども取り入れる伝統の創造(変革?)にも頭が下がる。(これは和太鼓奏者の林英哲さんにも感じること。)


などとエラソーに書きつつ、正直に言うとその心地よさにうとうとした瞬間もあったのだが、、
最後の演目
「国泰寺(こくたいじ)僧侶の読経と虚無僧による法竹の吹奏」

これが素晴らしかった!虚無僧16人に中村氏が加わった17人の尺八と5人の僧侶の読経が、各々独自のタイムで同時演奏されるそのサウンドが!読経と尺八の合奏というのは全国でも他に例がないらしい。


リズムはお経の言葉。イントネーションはまさにお経のアレだが、各自のピッチでそれぞれ発声されるので平行移動のハーモニーとして感じられる。語尾がのびたり、ぱしっと切れたりも、その単語による必然なのだろう。


その不定形なリズムトラックの上に尺八17本のユニゾンがのるのだが、これがまた面白い。尺八独特の楽譜に出来ない微妙なピッチとフレーズのタイミングが「ほぼ」合っている。この「ほぼ」はポジティブな「ほぼ」で、微妙な「ずれ」こそが心地よいのだ。


そんな「読経」と「尺八」が別のタイムコードの上を走る。普通なら気持ち悪そうでしょ?西洋音楽なら、足でリズムをきざみたくなるはずだけど、それが不可能な合奏。ピッチも拍子も常にゆらいでいる音。


それなのに、本当に気持ちが良かった!なんだか桃源郷にいるような心地よさ。
こんなのが病床に流れてきたら、心置きなく三途の川を渡れそうな心地よさ。
思わず全財産お布施してしまいそうな、、、いや、俺には財産は全くなかった。


これが「日本人」だからそう感じるのかどうかには自信がない。
異国の人(特に西洋系の人)がどう感じたのか聞いてみたいものである。


この「ゆらいだ感じ」は(私はCDのみで知る)「グレゴリオ聖歌」に通じるものがあると思う。ただし、グレゴリオ聖歌は男性コーラス。優しいけど、ちょっと暗い。
今回のは読経プラス尺八。尺八はレンジ的にも女性コーラスの役割。(と、今そう思った)
読経とは別のタイム感でゆったりと動く尺八のメロディー。
これが、桃色でまろやか〜な味わいが出ている理由かもしれない。


てな感じで今回も非常に貴重な体験をさせていただきました。感謝、感謝。
ちなみに今回のコンサートは下記のCDの発売記念だそうです。

虚無僧尺八の世界 北陸の尺八 三谷

虚無僧尺八の世界 北陸の尺八 三谷